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設立への思い―九州再審弁護団連絡会
連絡会世話人
弁護士 八尋光秀

1 再審を取り巻く状況

  2000年以降多くの再審事件が動いた。大崎、横浜、名張、布川、氷見、足利、東住吉、福井、東電OL などで再審開始決定を得た。

このうち、横浜は免訴、布川、氷見、足利、東電OLは再審無罪、東住吉は検察による即時抗告がなされ、大崎、名張、福井では決定が取り消しされ、引き続き再審無罪を求めている。

  いずれの事件も本人あるいは共犯者の自白調書が奏でる独白調の物語のままに有罪認定されてきた。自白調書における犯罪物語は捜査の手持ち証拠に沿って構築される。だから自白調書物語は法廷に提出される客観証拠、状況証拠、供述証拠のいずれにも整合したものである。他方、被告弁護側に証拠収集能力はないに等しい。裁判所は主に、この限られた法廷証拠との整合性をもって自白の信用性を判断する。法廷証拠が限られるほどに自白の信用性判断は自由を失い正当性を欠落させる。自白供述や目撃供述を証拠排除してもなお有罪が認定できるかという犯罪事実認定の原点に立つのでなければ、この問題は解決しえない。

  有罪を導いた自白調書物語が、捜査の手持ち証拠の開示、科学の進展、よりふさわしい犯人の出現によって、絵空事であったことが明らかになった。これが2000年以降の再審開始の流れである。

2 再審格差

  再審請求手続きは未整備のままだ。それぞれの裁判体が手探りで審理を進める。請求人本人と面会する裁判所もあれば最後まで会わない裁判所もある。3者協議を精力的に設定してゆく裁判所もあれば、音沙汰なしの裁判所もある。再審開始の判断基準と適用は、公認され平準化されているとは言い難い。とりわけ明白性判断における、弾劾対象となる要証事実は何か、証明力を減殺したのちの総合再評価とは何か、再審請求審における合理的な疑いとは何か。言葉のうえでは共通しているかに見えるが、その内実は個々別々である。それぞれの刑事再審の位置づけや理解のうえに立って裁判所は職権を行使し審理を進め判断を示す。

  たとえば検察官請求の場合と有罪の言渡しを受けたものが行う場合とで、再審請求の審理はまさに雲泥の差がある。検察官請求にあっては、請求者である検察官はすべての手持ち証拠を検討できるし、他の事件でたまたま得られた関連証拠も使える。証拠収集能力に優れ、そのための追加捜査も新たな科学鑑定の費用もすべて公費で賄う。有罪の言渡しを受けたものが行う場合、警察や検察が収集した手持ち証拠の全開示は保障されず、費用はすべて手弁当。

刑事司法における正義のための手続として同等であるべきが、これほどの格差さを容認してよいか。再審制度そのものを再考し整備する時期に来ている。

加えて、実務法曹3者の対応いかんによって、さまざまな局面で再審格差を生じている。せめて制度整備がなされるまで、実務法曹の対応いかんにより生じる再審格差はできるだけ縮めなければならない。

3 再審請求の目的

  刑事の有罪判決は、限られた法廷証拠によって形成される裁判所の確信にとどまる。歴史的証明の本質からして、それは判決確定後であっても仮説と位置付けるべきものである。

新しい科学、新しい合理性、新しい常識によって、古く「健全な社会常識」とされたものが突き崩される。捜査の手元に残る古くからの手持ち証拠が明るみにでる。よりふさわしい犯人が出現する。これらのことによって、誤判の是正は偶然に行われてきた。

このような僥倖に恵まれない冤罪がどれほど隠れているか、私たちは知らない。刑事司法に独立と正義があるとして、それを求め実現しようとすれば、誤判是正のためのエンジンをわれわれ法曹の手でふかし続けなければならない。

4 法曹3者のばらつき

  再審活動は過去になされた刑事裁判における不正義の是正であるとともに、これから将来なされる刑事裁判の適正化を図るものでもある。だからこそ刑事判決は常に検証され是正され続けなければならない。

  そうであるにもかかわらず、再審請求審の審理のありかたについて、法曹3者の対応にはばらつきがある。

  裁判所は多くを職権主義にまかされているが、その職権主義の規範性、判断基準、手続きなどは未確立のままである。もちろん立法の不備ではあるが、だからといって、現実に生じる大きな再審格差を放置してよいことにはならない。

検察官は矛盾をはらんだ立ち位置に置かれる。第1順位の再審請求権者として、誤判の是正をまずもって行うべき責務を負うとともに、有罪の言い渡しを受けたものがする再審請求では、誤判を守るものとしての振舞をしいられる。第1順位の再審請求権者としての責務を重視すれば、再審請求審への全証拠開示は、裁判所の勧告をまつまでもなく当然なすべきこととなろう。そうせずには、再審請求権限不行使についてなすべき釈明は成り立たないからだ。

弁護士は、証拠収集能力に乏しく、権限の裏付けも費用の手当てもない。日本弁護士連合会は人権擁護の観点から、再審部会を設置して、特定の事件について、人材及び費用の支援を行う。人権擁護の観点にとどまらず、その先に歩を進めるべき時が来ている。刑事司法の独立と正義のための活動として本格的な位置づけが求められる。全国的な会合だけでは個別の再審弁護活動にかかる情報や技術を深め合うには枠組みが大きすぎる。

5 再審請求審理における兆し

  再審請求審における実務は、今大きく変化している。これまでの正義の天秤は揺らぎはじめた。信じて疑わなかった自白供述が、それを踏み台にしてきた有罪判決が、構造的な問題をはらんでいることに気付いた。冒頭に掲げたいくつかの再審無罪は、裁判官100人が100人とも、確定審において有罪判決を書いたであろうことをうかがえる。このことは誤判冤罪の原因が裁判官の資質や経験をこえた、刑事裁判システムの問題であることを明らかにしている。

精魂を傾けたのだから有罪判決には万に一つの間違いもあるまいと目をつむる。有罪判決を守るのが仕事だと法秩序の安定をかたくなに優先させる。もう刑事裁判には絶望したと嘆く。今やそんな時機ではない。法曹3者が共同して、えん罪を掘り起し、その誤りを分析し、刑事裁判システムを更新して、新しい正義の天秤を作らなければならない局面にある。

たとえば証拠開示。進んだ例でいえば、再審請求審において捜査段階の始まりから当の再審請求審までに収集した全証拠、全資料を裁判所に開示するよう勧告がなされ、検察は任意にこれに応じる対応が見られる。全証拠、全資料開示のもとで、法曹3者が自らの手によって、個別事件における誤判冤罪の原因究明と同種冤罪の再発防止を成し遂げる。それが可能となった。

そのためにまず再審弁護活動の質を飛躍的に向上させなければならない。再審制度、審理手続き、審理の充実と促進、再審開始判断のオーソライズ、個別事件の類型化と論点・争点の見極め方など。これらにかかわる情報を収集し整理し共有する。とともに刑事再審請求審にかかる法と制度改革を提言し、刑事裁判全体への改革へとつなげる。そのような活動のなかでこそ、再審弁護の質もまた向上することだろう。

6 九州再審弁護団連絡会の設立

  九州地区には死刑執行後再審事件がある。福岡、菊池、飯塚の3事件だ。飯塚は再審請求が係属し、菊池は検察官に再審請求への権限発動を要請している。福岡は数次の再審請求ののち菊池と同様の展開を準備している。そのほかマルヨ無線、大崎、松橋及び宮崎の女性殺害事件の4事件が再審請求係属中である。九州内の再審事件はこれらに限られない。

個々の再審弁護活動が孤立することなく、相互に情報と意見を交流させ、弁護活動の質を高めようと、このたび九州再審弁護団連絡会を設置した。年1回程度、経験交流集会を開催し、その合間に数回の事務局会議を開き、随時インターネットを通じて情報交換をしたい。加えて、研究者の協力を得て、再審にかかる法と制度のありかたを検討し再審制度改革の提言へとつなげたい。

連絡会第1回交流集会を昨年11月9〜10日に玉名市のシュバイツアー寺で開催した。私たちはここを雪冤活動の聖地とよんだ。シュバイツアー博士の「生命への畏敬」という思想に共鳴し、福岡事件死刑囚2人の雪冤と救命に奔走した故古川泰龍師が開山した。今も「死なぬ死刑囚」西武雄の遺稿と遺作が展示され、冤罪死刑の悲しみと罪深さを伝える。

会議は前記7弁護団の事件報告にはじまり、“再審請求審における全面証拠開示への理論と実践―再審格差をどうのりこえるか”をテーマに集団討議を行った。夜を明かして冤罪被害とこれに対して私たち法曹のとるべき態度を語り合った。翌日は活動方針を確認した。弁護団相互の協力体制の確立と外国における再審法制の調査検討を行うことを決めた。

7 日本各地に再審弁護団連絡会を 

  一同に会して検討できる事件数は限られる。個別具体的な検討となると、さらにその機会は少なくなる。効果的に個別案件の集団討議をし、経験交流や情報交換をするには、地域限定の弁護団連絡会が必要だ。その成果を各地域からもちよって、全国へとつなげたい。

再審弁護はわれわれにとって最も困難な活動のひとつである。だが冤罪は私たち法曹の手になるものである。冤罪は身近に潜んでいる。隠れた冤罪を発見し、誤判の構造と原因をつきとめ、正すことができるのも私たちだ。個々の再審弁護活動はすべての再審弁護活動とつながっている。弁護活動を分断してはならない。弁護の横の連帯を密にして弁護の質と量を高める。せめて大きく困難な壁を前に私たちがこれからどうやっていけばいいのか話し合うことから始めたい。

日本各地に再審弁護団連絡会が設立されることを待ち望んでいる。

以上

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